蔭日向。
気ままに落書きや小説を書いたり萌え語りしています。詳細は『復活しました!』という最古記事に。リンクからオリジナル小説、ポケ擬人化のまとめ記事に飛べます。
カテゴリー「novel」の記事一覧
- 2025.04.17
[PR]
- 2012.04.01
He that cannot dissembble know not how to live.
- 2012.03.11
ラビット・アドベンチャー 3
- 2012.03.01
10DAY's Limit 8
- 2012.02.29
10DAY's Limit 7
- 2012.02.28
ラビット・アドベンチャー 2
ラビット・アドベンチャー 3
- 2012/03/11 (Sun)
- novel |
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- ▲Top
「あら、新菜ちゃん。今日は。」
新菜に話し掛けたのは恰幅の良い服屋のおばさんだった。
新菜だけでなく、卯月や黒兎とも知り合いで、この島では珍しい子供である3人を可愛がってくれている。
「今日は!おばさんも買い物ですか?」
「そうよ。今日の昼食は美味しい魚が食べたいと思って。」
そうなんですか、と相槌をうった後、新菜は気になっていたことをおばさんに聞いてみることにした。
「……あの、今日卯月と黒兎見てませんか?」
「卯月くんと黒兎くん?今日は見てないわねぇ。」
「そうですか。2人とも朝から家にいなかったので。」
「あらあら。それで新菜ちゃんは少し元気が無かったのね。」
「え?」
「ふふふ。新菜ちゃんは隠してたみたいだけど、おばさんには分かっちゃうわよ!今日は一緒にお昼ご飯食べましょう。そうと決まればもっと食材買わないと。」
「あ、そんな、大丈夫ですよ!」
歩き出そうとしたおばさんを新菜は慌てて引き止めた。
すると、おばさんは優しく笑った。
「新菜ちゃんが元気ないと、皆心配しちゃうわよ。」
歩き出したおばさんに聞こえないように、新菜は呟いた。
「…まだまだだなぁ。」
その表情は、少し幸せそうだった。
そこはとても暗い森だった。
昼近くだというのに、高い木々が青い空を隠して、下まで光が殆ど届かない。
地面は常に湿っており、まるで沼のように足を捕られる。
地面に生える植物は、光が届かなくても生きていける、強い者達。
空気は梅雨の時期のように、一年中じめじめと暑苦しい。
『黒の森』。それがこの森の愛称だ。
「歩きにくい…。」
「暑い…。」
卯月と黒兎が同時にぼやいた。
2人とも似たようなジーンズの裾を折り、落ちてこないように留めており、履き古したスニーカーは勿論、足首から下は泥まみれだった。
卯月は手にカンテラを持ち、黒兎はコンパスを首から下げている。
2人は沈む足を必死に引き抜きながら、一歩一歩とてもゆっくりと進んでいた。
「さすがに『黒の森』って感じだね…。」
「全くだ…。こんなとこにくる奴は相当な阿呆か物好きだな。」
「僕達のことじゃんか…。」
この森には道が存在しない。
誰も入らないというのもあるが、地面の状態がとてつもなく悪いという理由の方が大きい。
カンテラがあるとはいえ、せいぜい足元を照らすのが精一杯。
それでも、巨大な身長を支える巨大な木の根に足を引っ掛け転倒、ということは防げる。
2人はコンパスで方角を確認しながら、暗い道なき道をひたすら全力で歩き続ける。
「もうかれこれ1時間は経つぞ…。」
「………まだ、1時間なのか…。あと何時間歩けばこの森を抜けられるんだろう…。」
「…あと、3時間くらいか?」
「僕は…4時間だと思う。」
「よっしゃ…。賭けようぜ。」
「………こんなところで何を…?」
「そうだな……。今日の夕飯…とか?」
「…多分、この森を抜けたときはヘロヘロだろうから…、非常食になると思うよ…。」
「ま…、その時に考えるってことで。じゃ…決まりだな!」
黒兎はいきなり元気になって、気合いで卯月を通り越した。
すれ違う際に卯月が持っていたカンテラを奪い取って、ずんずん進んでいく。
「あ、ちょっと…!」
「このまま自分のペースに合わせて賭けに勝とうなんて、そうはいかないぜ!」
そんな2人を見ている姿があることに、2人は全く気が付いていなかった。
新菜に話し掛けたのは恰幅の良い服屋のおばさんだった。
新菜だけでなく、卯月や黒兎とも知り合いで、この島では珍しい子供である3人を可愛がってくれている。
「今日は!おばさんも買い物ですか?」
「そうよ。今日の昼食は美味しい魚が食べたいと思って。」
そうなんですか、と相槌をうった後、新菜は気になっていたことをおばさんに聞いてみることにした。
「……あの、今日卯月と黒兎見てませんか?」
「卯月くんと黒兎くん?今日は見てないわねぇ。」
「そうですか。2人とも朝から家にいなかったので。」
「あらあら。それで新菜ちゃんは少し元気が無かったのね。」
「え?」
「ふふふ。新菜ちゃんは隠してたみたいだけど、おばさんには分かっちゃうわよ!今日は一緒にお昼ご飯食べましょう。そうと決まればもっと食材買わないと。」
「あ、そんな、大丈夫ですよ!」
歩き出そうとしたおばさんを新菜は慌てて引き止めた。
すると、おばさんは優しく笑った。
「新菜ちゃんが元気ないと、皆心配しちゃうわよ。」
歩き出したおばさんに聞こえないように、新菜は呟いた。
「…まだまだだなぁ。」
その表情は、少し幸せそうだった。
そこはとても暗い森だった。
昼近くだというのに、高い木々が青い空を隠して、下まで光が殆ど届かない。
地面は常に湿っており、まるで沼のように足を捕られる。
地面に生える植物は、光が届かなくても生きていける、強い者達。
空気は梅雨の時期のように、一年中じめじめと暑苦しい。
『黒の森』。それがこの森の愛称だ。
「歩きにくい…。」
「暑い…。」
卯月と黒兎が同時にぼやいた。
2人とも似たようなジーンズの裾を折り、落ちてこないように留めており、履き古したスニーカーは勿論、足首から下は泥まみれだった。
卯月は手にカンテラを持ち、黒兎はコンパスを首から下げている。
2人は沈む足を必死に引き抜きながら、一歩一歩とてもゆっくりと進んでいた。
「さすがに『黒の森』って感じだね…。」
「全くだ…。こんなとこにくる奴は相当な阿呆か物好きだな。」
「僕達のことじゃんか…。」
この森には道が存在しない。
誰も入らないというのもあるが、地面の状態がとてつもなく悪いという理由の方が大きい。
カンテラがあるとはいえ、せいぜい足元を照らすのが精一杯。
それでも、巨大な身長を支える巨大な木の根に足を引っ掛け転倒、ということは防げる。
2人はコンパスで方角を確認しながら、暗い道なき道をひたすら全力で歩き続ける。
「もうかれこれ1時間は経つぞ…。」
「………まだ、1時間なのか…。あと何時間歩けばこの森を抜けられるんだろう…。」
「…あと、3時間くらいか?」
「僕は…4時間だと思う。」
「よっしゃ…。賭けようぜ。」
「………こんなところで何を…?」
「そうだな……。今日の夕飯…とか?」
「…多分、この森を抜けたときはヘロヘロだろうから…、非常食になると思うよ…。」
「ま…、その時に考えるってことで。じゃ…決まりだな!」
黒兎はいきなり元気になって、気合いで卯月を通り越した。
すれ違う際に卯月が持っていたカンテラを奪い取って、ずんずん進んでいく。
「あ、ちょっと…!」
「このまま自分のペースに合わせて賭けに勝とうなんて、そうはいかないぜ!」
そんな2人を見ている姿があることに、2人は全く気が付いていなかった。
10DAY's Limit 8
- 2012/03/01 (Thu)
- novel |
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「きゃああああああ!」
「!?」
突然の悲鳴に、びくりと身体が震えた。
咄嗟に声のした方を見ると、そこには子供達と3人組の男達がいた。
「ご、ごめんなさいっ!ごめんなさい!」
「ごめんなさいで済むと思ってんのか!?糞餓鬼!」
何があったのか確かめる為、ちょっと近付いてみる。
かなり怖いけど…多分見えないだろうし…大丈夫だ。
「ううっ…。ぐすっ…。た、助けて……。」
真ん中の男に1人の女の子が片手で持ち上げられていた。
残りの子供達はかなり怯えながらその子を見上げている。
公園には他にも数人の人がいたが、皆悲鳴とその光景に驚いているようだった。
「こんなところでギャーギャー騒いで遊びやがって…。」
「ちょっと教えてやった方が良いんじゃねぇの?」
のんびり平和だった公園が、緊張に呑まれていく。
「やぁれやれ。こいつらろくな死に方しねぇな。」
そんな雰囲気を打ち壊したのは楽しそうな声。
「ボールがぶつかっただけなのによぉ。」
「お前…。見てたのか。」
小さい死神が俺の横をふわふわ浮いていた。
「テメェが助けてやれよ。」
「そりゃ、助けてやりたいけど…この身体じゃどうすることも…。」
死神が此方を向いて、ニヤリと笑った。
「あれだ。」
死神が指差したその先には、サッカーボールが転がっていた。
「………あれが?」
「あれで助けてやれる。」
「はぁ…?」
「ま、一回やってみんのが早ぇな。」
ぽんっ、と軽い音がしたと思ったら、死神が大きくなっていた。いや、元の大きさに戻ったのか。
「あいつをじーっと見てろ。目ぇ反らすんじゃねぇぞ!」
そして俺の後ろへと回り込んだ、瞬間。
「取り憑けぇぇぇぇぇ!!!」
背中を思いっきり蹴られた。
「っ!!」
余りの痛さに声も出なかった。俺は勢い良く蹴り飛ばされ、真っ直ぐサッカーボールへと突っ込んだ。
『ってぇ!』
顔から地面に激突し、思わず鼻を押さえて蹲った。
ちくしょう、あの野郎…!何しやがるんだ…!
「何してやがる!さっさと助けやがれ!!」
死神の声が聞こえて、顔を上げる。
けれど、見えるのは子供の靴だけだった。
立ち上がってみても子供の膝までしか見えない。
………は?え?何が起こった…?
「おい!ぼーっとしてんじゃねぇぞ!!」
死神の声が遥か上の方から聞こえる気がする。
空を見上げるように顔を上げると、そこには死神と一緒に2人の人間が。
やたらデカイ巨人みたいな男に、片手で持ち上げられている1人の女の子。
そして、男のもう片方の手が振り上げられる。
「たすけてぇぇぇ!!」
『く、くそぉ!!』
もうやけくそだ。俺は走り出す。
『オラァァァァァ!』
そして思いっきりジャンプした。
「ぐあっ!!」
男の腹にサッカーボールが突っ込んだ。
その衝撃で男の手から女の子は離れて地面に落ちた。
「きゃっ!」
「な、何だ!?」
「い、今、ボールが勝手に飛び上がったぞ!?」
男の後ろ側に立っていた死神は、ニヤニヤ笑いながら言った。
「………だっせぇ。」
サッカーボールは地面に落ち、2、3回弾みながら転がった。
『って!』
俺は男に突っ込んだ反動で、後ろに2、3回転がる羽目になった。
痛みを堪えて目を開けると、青い空が涙で滲んでいた。
『も~………。何なんだよ一体…。』
「よぉ。おつかれさん。」
ガバッと身体をを起こすと、死神が屈み込んで俺を見つめていた。
『お前何しやがるんだ!!いや、何しやがった!!』
「ボールに取り憑いたんだよ。それにしてもダサ過ぎだろ。」
『うるさい!いきなり蹴りやがって!勝手に変なことさせやがって!早く元に戻せ!!』
「離れる。」
『は?』
「は、な、れ、る!」
『………は、な、れ、る。』
すると、身体がふっと楽になった。
「………………。」
「戻ったぞ。」
ゆっくりと自分の身体を見回す。腕、足、背中、胸の砂時計。
周りを見回す。男達はいなくなっていた。
そして子供達は不思議そうにサッカーボールを撫で回していた。
俺は死神を睨み付けた。
「……………今の…何。」
「憑依だよ。ゲーム中の奴に与えられる能力だ。」
「最初に言えよ!」
「そのうち言おうと思ってたんだよ。それにテメェは絶対嫌がると思ったしなぁ。ま、貴重な経験したと思えよ。」
何だそれ。何だそれ。何だそれ。何が貴重な経験だ。こんな経験したくも無かったよ。
「レイ君ー。死神さーん。」
振り返ると、公園の入り口で如月さんが手を振っていた。
「あれ、何で…。」
「俺に任せとけ、テメェはジュースでも買ってこい、って言っといた。」
死神が如月さんの方へ向かったので慌ててついていく。
如月さんは手に缶ジュースを3本抱えていた。
「2人とも大丈夫だった?」
「ま、まぁ、何とか…。」
「そっか、良かった。あれ?死神さん大きくなってる。」
「これがフツーなんだよ。俺、この紫の奴。」
死神は如月さんの手から缶ジュースを一本取った。
「はい。レイ君の分。お疲れ様。」
如月さんがオレンジの缶ジュースを渡してくれた。
「あ、ごめん。ありがとう。」
「良いよ。これ飲んだら出発しようか。」
「うん。」
何処からか、ジュースが浮いてる!と声が聞こえたので、俺達は慌てて公園を出たのだった。
10DAY's Limit 7
- 2012/02/29 (Wed)
- novel |
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- ▲Top
可愛い鳥のさえずりが聞こえる。もう朝か…。起きないと…。
「オラーーー!!!朝だぞ!!とっとと起きやがれ!!」
「わっ!」
一気に目が冴えてしまった。いきなり耳元で叫ぶなんて最悪な起こされ方だ。
「朝からうるさいだろ!」
「テメェがさっさと起きねぇからだろが!自業自得だな!」
「今起きようとしてたんだよ!」
朝から元気よく言い争いをしていると、部屋のドアがノックされた。
「レイ君と死神さん、おはよう。」
声で分かる。如月さんだ。
「朝ごはん出来たから食べて。下で待ってるからねー。」
階段を降りていく音が聞こえた。わざわざ作ってくれたのに待たせるなんていけない。早く降りなければ。………って、ちょっと待てよ。
「…なぁ、この身体でご飯って食べれるのか?」
「さぁな。やってみればいいだろが。」
「分からないのかよ!」
「俺は半幽霊状態の奴なんかと一緒に飯食ったことねぇからな。」
…食べれなかったらどうしよう。
下へ降りると、既にダイニングに美味しそうな朝食が3人分並べられていていた。
「口に合えば良いんだけど…。」
「なかなか美味そうじゃねーか。食べてやるよ。」
そう言うと死神は手掴みでパンを引き契って食べ始めた。
小さいままなので、パンは死神とおなじくらいの大きさがある。
机の上に胡坐をかいて、両手でパンを削っていくその様は、とてつもなく行儀が悪いのに、大きさのせいで可愛く見えてしまう。
「レイ君もどうぞ。」
「あ、あぁ、うん…。い、頂きます。」
恐る恐るスープを口に運んでみる。
「…………美味しい。」
「本当?良かった。」
た、食べれた…。良かった。幽霊ってご飯食べれるのか。そういえば天国には豪華なご馳走があるって聞くしな。…いや、俺は幽霊じゃないけど。
「ねぇ、今日はどうするの?」
如月さんは朝食を食べながら死神に聞いた。
「そーだな。この辺を適当にぶらついてみるか。こいつに何か変化あるかもしれねぇし。」
「じゃあ、私が案内してあげるよ。この町の中だけでいい?」
「そーだな。多分それでいいだろ。」
「分かった!とびきりの場所に連れていってあげるね。」
如月さんは随分俺に協力的だ。昨日も寝る前までたくさん話をした。
今はお盆休みも過ぎた8月の半ば。
如月さんの学校は今は夏休みらしいが、昨日は部活があったらしい。
引っ越して去年の春からこの町に住むことになり、両親は忙しい人なのでなかなか家にも帰って来ないとのこと。
だけど全然寂しくはないそうだ。見かけによらず強い子なんだな、と思った。
如月さんが一部の記憶を無くしたのはつい最近らしい。
気が付いたら病院にいて、でも軽傷で済んだのですぐに退院出来たそうだ。
何か大切なものを忘れている気がして、両親に尋ねてみたが曖昧にはぐらかされてしまったそうだ。
「でも、本当に本当に大切なことだった気がするの。絶対に思い出さないといけない気がするの。」
そう言った如月さんの辛そうな顔が、その後しばらく頭から離れなかった。
朝食の後、如月さんの案内で町を巡る。
同じような家が続く住宅路を行き、しばらくすると大きな学校の前を通る。
如月さんの通っている学校らしい。見た感じ、お嬢様学校って感じだけどそうでもないらしい。
この町に学校は此処しかなく、もしかしたらテメェもここに通ってたんじゃねーのかと死神に言われたが、何も思い出せなかった。
そもそも、俺は学生だったのだろうか。
学校を通り過ぎて、駅前の商店街へ。
いろんな店が並んでいて、夏休みということもあるのか、子供や学生らしい人が多かった。
死神は見るもの珍しいそうで、辺りをあっちこっちせわしなく浮遊していた。
俺は如月さん以外の人に見えてしまって騒がれたらどうしようと思ったが、全然見向きもされなかった。
幽霊の見える人なんてなかなかいないんだな。当たり前か。
如月さんはすいすいと商店街を抜けていく。
食品とかの買い物以外ではなかなか来ないそうで、あまり遊んだこともないそうだ。
如月さんに話し掛ける人は、誰もいなかった。
駅はあまり大きくない、路線4本くらいのものだった。
如月さんは歩くのが好きで、一駅くらいの距離ならば、なかなかバスや電車は利用しないらしい。
両親がたまに会社から離れて帰って来るような時は、如月さんが駅まで迎えに行って外食にでも行くんだそうだ。
親を待っている時によくお世話になっているんだよ、と如月さんは駅前の広場にあるベンチに座った。
勧められたので、俺も隣に座ってみた。駅全体が良く見えた。
踏切を渡ると、また住宅街。
でも駅近くなのでアパートが多い気がする。
犬の散歩をしていた人とすれ違ったとき、犬に吠えられた。
一瞬本気でびっくりした。動物は人間に見えないものが見えているって聞くけど、本当にそうだったのか。
死神がなんだようっせーな!と犬に怒り、もっと吠えられた。
如月さんが飼い主に謝られ、犬は叱られていたが、犬は全く悪くないと思った。
噴水のある綺麗な公園に着いたので、一休みすることにした。
小さな子供達が元気よく走り回るのをぼんやりと見ていた。
子供って霊感とか強いことがあるらしいが、全く気付かれない。
サッカーに夢中だったってこともあるのかもしれないけど。
「レイ君、楽しい?」
ふと、如月さんが横から顔を覗いてきた。ちょ、ちょっと顔が近い…。
「あ、あの、…うん。楽しいよ。」
「私も何だか凄く楽しいんだ。」
「そ、そっか…。それなら良いんだけど。わざわざ町案内なんて疲れるだろうし、申し訳ないなって思ってたから…。」
「私は全然大丈夫だよ。散歩好きだし。あとちょっと休憩したらまた歩こうね。」
如月さんは微笑んだ後、喉が渇いたとか言って水を飲みに行っていた死神の元へと走っていった。
俺は鼓動が少し速くなっていた心臓を落ち着ける為に、長く息を吐いた。その時。
「きゃああああああ!」
公園に高い悲鳴が響き渡った。
「オラーーー!!!朝だぞ!!とっとと起きやがれ!!」
「わっ!」
一気に目が冴えてしまった。いきなり耳元で叫ぶなんて最悪な起こされ方だ。
「朝からうるさいだろ!」
「テメェがさっさと起きねぇからだろが!自業自得だな!」
「今起きようとしてたんだよ!」
朝から元気よく言い争いをしていると、部屋のドアがノックされた。
「レイ君と死神さん、おはよう。」
声で分かる。如月さんだ。
「朝ごはん出来たから食べて。下で待ってるからねー。」
階段を降りていく音が聞こえた。わざわざ作ってくれたのに待たせるなんていけない。早く降りなければ。………って、ちょっと待てよ。
「…なぁ、この身体でご飯って食べれるのか?」
「さぁな。やってみればいいだろが。」
「分からないのかよ!」
「俺は半幽霊状態の奴なんかと一緒に飯食ったことねぇからな。」
…食べれなかったらどうしよう。
下へ降りると、既にダイニングに美味しそうな朝食が3人分並べられていていた。
「口に合えば良いんだけど…。」
「なかなか美味そうじゃねーか。食べてやるよ。」
そう言うと死神は手掴みでパンを引き契って食べ始めた。
小さいままなので、パンは死神とおなじくらいの大きさがある。
机の上に胡坐をかいて、両手でパンを削っていくその様は、とてつもなく行儀が悪いのに、大きさのせいで可愛く見えてしまう。
「レイ君もどうぞ。」
「あ、あぁ、うん…。い、頂きます。」
恐る恐るスープを口に運んでみる。
「…………美味しい。」
「本当?良かった。」
た、食べれた…。良かった。幽霊ってご飯食べれるのか。そういえば天国には豪華なご馳走があるって聞くしな。…いや、俺は幽霊じゃないけど。
「ねぇ、今日はどうするの?」
如月さんは朝食を食べながら死神に聞いた。
「そーだな。この辺を適当にぶらついてみるか。こいつに何か変化あるかもしれねぇし。」
「じゃあ、私が案内してあげるよ。この町の中だけでいい?」
「そーだな。多分それでいいだろ。」
「分かった!とびきりの場所に連れていってあげるね。」
如月さんは随分俺に協力的だ。昨日も寝る前までたくさん話をした。
今はお盆休みも過ぎた8月の半ば。
如月さんの学校は今は夏休みらしいが、昨日は部活があったらしい。
引っ越して去年の春からこの町に住むことになり、両親は忙しい人なのでなかなか家にも帰って来ないとのこと。
だけど全然寂しくはないそうだ。見かけによらず強い子なんだな、と思った。
如月さんが一部の記憶を無くしたのはつい最近らしい。
気が付いたら病院にいて、でも軽傷で済んだのですぐに退院出来たそうだ。
何か大切なものを忘れている気がして、両親に尋ねてみたが曖昧にはぐらかされてしまったそうだ。
「でも、本当に本当に大切なことだった気がするの。絶対に思い出さないといけない気がするの。」
そう言った如月さんの辛そうな顔が、その後しばらく頭から離れなかった。
朝食の後、如月さんの案内で町を巡る。
同じような家が続く住宅路を行き、しばらくすると大きな学校の前を通る。
如月さんの通っている学校らしい。見た感じ、お嬢様学校って感じだけどそうでもないらしい。
この町に学校は此処しかなく、もしかしたらテメェもここに通ってたんじゃねーのかと死神に言われたが、何も思い出せなかった。
そもそも、俺は学生だったのだろうか。
学校を通り過ぎて、駅前の商店街へ。
いろんな店が並んでいて、夏休みということもあるのか、子供や学生らしい人が多かった。
死神は見るもの珍しいそうで、辺りをあっちこっちせわしなく浮遊していた。
俺は如月さん以外の人に見えてしまって騒がれたらどうしようと思ったが、全然見向きもされなかった。
幽霊の見える人なんてなかなかいないんだな。当たり前か。
如月さんはすいすいと商店街を抜けていく。
食品とかの買い物以外ではなかなか来ないそうで、あまり遊んだこともないそうだ。
如月さんに話し掛ける人は、誰もいなかった。
駅はあまり大きくない、路線4本くらいのものだった。
如月さんは歩くのが好きで、一駅くらいの距離ならば、なかなかバスや電車は利用しないらしい。
両親がたまに会社から離れて帰って来るような時は、如月さんが駅まで迎えに行って外食にでも行くんだそうだ。
親を待っている時によくお世話になっているんだよ、と如月さんは駅前の広場にあるベンチに座った。
勧められたので、俺も隣に座ってみた。駅全体が良く見えた。
踏切を渡ると、また住宅街。
でも駅近くなのでアパートが多い気がする。
犬の散歩をしていた人とすれ違ったとき、犬に吠えられた。
一瞬本気でびっくりした。動物は人間に見えないものが見えているって聞くけど、本当にそうだったのか。
死神がなんだようっせーな!と犬に怒り、もっと吠えられた。
如月さんが飼い主に謝られ、犬は叱られていたが、犬は全く悪くないと思った。
噴水のある綺麗な公園に着いたので、一休みすることにした。
小さな子供達が元気よく走り回るのをぼんやりと見ていた。
子供って霊感とか強いことがあるらしいが、全く気付かれない。
サッカーに夢中だったってこともあるのかもしれないけど。
「レイ君、楽しい?」
ふと、如月さんが横から顔を覗いてきた。ちょ、ちょっと顔が近い…。
「あ、あの、…うん。楽しいよ。」
「私も何だか凄く楽しいんだ。」
「そ、そっか…。それなら良いんだけど。わざわざ町案内なんて疲れるだろうし、申し訳ないなって思ってたから…。」
「私は全然大丈夫だよ。散歩好きだし。あとちょっと休憩したらまた歩こうね。」
如月さんは微笑んだ後、喉が渇いたとか言って水を飲みに行っていた死神の元へと走っていった。
俺は鼓動が少し速くなっていた心臓を落ち着ける為に、長く息を吐いた。その時。
「きゃああああああ!」
公園に高い悲鳴が響き渡った。
ラビット・アドベンチャー 2
- 2012/02/28 (Tue)
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暖かい光を浴びて輝く、緑一色の大地。
たまに心地よい風が大地に吹けば、
足首までの短い草が揺れ、緑の波が生まれる。
ぽつぽつと立っている木が波の形を少しだけ歪め、
大地に不定形な波を作り出す。
その様は、まるで緑の海のようだった。
波が通り過ぎた木の下に、2人の少年が立っていた。
2人はTシャツの色以外全く同じ格好をしている。
「次はあの木だ。」
かろうじて見える木を右手で指差しながら、白いTシャツを着た少年が言った。
「はぁ…。」
黒いTシャツを着た少年は、疲れたようにため息をついた。
「木を目印にしなきゃまともに進めないとは思ってたけど…。こんなに面倒だとは思ってなかったぜ…」
「仕方ないさ。広い草原で方向が分からなくなったら終わりだよ」
「わかってるよそんなこと。だけど、やっぱ面倒だろ?」
「…面倒だけど仕方ないさ。出発したばかりで面倒面倒言ってたらこれ以上進めないよ。」
「そうだけど…。面倒なものを面倒って言うのは当然だろ?あの木に着いたら次の木を見つけて、次の木に着いたらまた次の木を見つけて…。あー…面倒だ」
「…だから、面倒だけど、仕方ないさ。」
進歩のない会話をしながら、2人は延々と続く果てしない草原をゆっくり慎重に進んでいた。
やがて、2人の目の前に草以外の風景が映った。
「あ、川だ。」
「やれやれ…。ちょっと休もうぜ。」
「そうだね。後は川沿いに行けば森に着けるだろうし。」
「何か精神削られるな…。ホントにこの草原はただただ広いだけだよなー。動物もいないし、変わった物も無いし。」
卯月は右手に持っていたコンパスをリュックにしまった。
「『迷いの草原』って言われるだけあるってことさ。」
2人がいる草原は、島の住民から『迷いの草原』と呼ばれている。
そこは、足首までの草と青い空がただただ続く世界。
そのうち方角が分からなくなり、草原から抜け出すことが出来なくなってしまう。
ぽつぽつと生える木は万が一、迷い込んでしまったときの唯一の道しるべ。
しかしその道が何処へ通じているのかは、誰にも分からない。
そんな草原を2人が突破しなければいけないのには訳がある。
「これで誰にもばれずに森まで行けるんだな!」
「いくら朝早くたって、誰かに会えば新菜に伝わるかもしれないからな…。」
2人が目指す森はこの草原を越えずとも、大きく迂回すれば辿り着ける。
島の住民達が草原に入らない為に作られた、普通の道があるからだ。
しかし2人は島の住民達に見られるのを避ける為、
真っ直ぐ草原を突っ切って進んで来たのだった。
「…何か女1人の為にここまでする俺らってダサくね?」
「え?そうかな…。」
「だって何しても何処行っても、心配させないってくらいの方が格好いいだろ。」
「………………。」
「それほど強いって言うか、頼れるって言うか…。」
「黒兎、それ以上言わないで………。」
黒兎が卯月を見ると、卯月は体操座りをして頭を抱えていた。
「………本気でへこむなよ…。」
その後何とか気を奮い足せ、2人は川沿いを森へと向かい歩き出すのだった。
ちょうどその頃。
卯月の家に1人の少女がやって来た。
「卯月ー。おはよー。」
白いワンピースの上に、薄い橙色のエプロンを着けている。
その手には大きめのバスケットが握られていた。
背中まである長く黒い髪。
頭の横には大きな赤いリボン。
大きな瞳は綺麗な桃色をしている。
「卯月ー?いないの?」
少女はドアノブを回してみるが、鍵が掛かっていてドアは開かなかった。
「朝早くから何処行ったんだろう…。」
残念そうに肩を落とし、バスケットに被せてあった赤いチェック柄の布を捲る。
バスケットの中には焼きたてでまだ少し熱を持った、美味しそうなパンが入っていた。
「…勿体ないから黒兎にあげにいこう!」
布を元に戻し、少女は黒兎の家へと駆け出した。
たまに心地よい風が大地に吹けば、
足首までの短い草が揺れ、緑の波が生まれる。
ぽつぽつと立っている木が波の形を少しだけ歪め、
大地に不定形な波を作り出す。
その様は、まるで緑の海のようだった。
波が通り過ぎた木の下に、2人の少年が立っていた。
2人はTシャツの色以外全く同じ格好をしている。
「次はあの木だ。」
かろうじて見える木を右手で指差しながら、白いTシャツを着た少年が言った。
「はぁ…。」
黒いTシャツを着た少年は、疲れたようにため息をついた。
「木を目印にしなきゃまともに進めないとは思ってたけど…。こんなに面倒だとは思ってなかったぜ…」
「仕方ないさ。広い草原で方向が分からなくなったら終わりだよ」
「わかってるよそんなこと。だけど、やっぱ面倒だろ?」
「…面倒だけど仕方ないさ。出発したばかりで面倒面倒言ってたらこれ以上進めないよ。」
「そうだけど…。面倒なものを面倒って言うのは当然だろ?あの木に着いたら次の木を見つけて、次の木に着いたらまた次の木を見つけて…。あー…面倒だ」
「…だから、面倒だけど、仕方ないさ。」
進歩のない会話をしながら、2人は延々と続く果てしない草原をゆっくり慎重に進んでいた。
やがて、2人の目の前に草以外の風景が映った。
「あ、川だ。」
「やれやれ…。ちょっと休もうぜ。」
「そうだね。後は川沿いに行けば森に着けるだろうし。」
「何か精神削られるな…。ホントにこの草原はただただ広いだけだよなー。動物もいないし、変わった物も無いし。」
卯月は右手に持っていたコンパスをリュックにしまった。
「『迷いの草原』って言われるだけあるってことさ。」
2人がいる草原は、島の住民から『迷いの草原』と呼ばれている。
そこは、足首までの草と青い空がただただ続く世界。
そのうち方角が分からなくなり、草原から抜け出すことが出来なくなってしまう。
ぽつぽつと生える木は万が一、迷い込んでしまったときの唯一の道しるべ。
しかしその道が何処へ通じているのかは、誰にも分からない。
そんな草原を2人が突破しなければいけないのには訳がある。
「これで誰にもばれずに森まで行けるんだな!」
「いくら朝早くたって、誰かに会えば新菜に伝わるかもしれないからな…。」
2人が目指す森はこの草原を越えずとも、大きく迂回すれば辿り着ける。
島の住民達が草原に入らない為に作られた、普通の道があるからだ。
しかし2人は島の住民達に見られるのを避ける為、
真っ直ぐ草原を突っ切って進んで来たのだった。
「…何か女1人の為にここまでする俺らってダサくね?」
「え?そうかな…。」
「だって何しても何処行っても、心配させないってくらいの方が格好いいだろ。」
「………………。」
「それほど強いって言うか、頼れるって言うか…。」
「黒兎、それ以上言わないで………。」
黒兎が卯月を見ると、卯月は体操座りをして頭を抱えていた。
「………本気でへこむなよ…。」
その後何とか気を奮い足せ、2人は川沿いを森へと向かい歩き出すのだった。
ちょうどその頃。
卯月の家に1人の少女がやって来た。
「卯月ー。おはよー。」
白いワンピースの上に、薄い橙色のエプロンを着けている。
その手には大きめのバスケットが握られていた。
背中まである長く黒い髪。
頭の横には大きな赤いリボン。
大きな瞳は綺麗な桃色をしている。
「卯月ー?いないの?」
少女はドアノブを回してみるが、鍵が掛かっていてドアは開かなかった。
「朝早くから何処行ったんだろう…。」
残念そうに肩を落とし、バスケットに被せてあった赤いチェック柄の布を捲る。
バスケットの中には焼きたてでまだ少し熱を持った、美味しそうなパンが入っていた。
「…勿体ないから黒兎にあげにいこう!」
布を元に戻し、少女は黒兎の家へと駆け出した。
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日蔭
性別:
女性
自己紹介:
毎日のんびりマイペースに過ごす学生です。
ポケモン、APH、キノの旅、牧場物語、ゼルダの伝説など大好物増殖中。
基本的にキャラ単体萌え。かっこかわいい方に非常に弱い。女の子ならボーイッシュな子がクリティカルヒット。カプに関してはノマカプ萌えですがたまに腐るかもしれない。
現在6つのオリジナル小説を亀更新中。書きたいのいっぱいありすぎてどれも手が回ってない。
絶賛ポケ擬人化再熱中!!デザインが来い。
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